植物染料と色

植物の根や葉、樹皮を煮て色素を出し、それに布を漬け込み染め上げます。主に「浸染(しんせん)」と呼ばれる煮出し染めの方法を用い、数日かけてじっくりと熱湯の中で染めることで、生地の目が詰まり、より柔らかな肌触りに仕上がります。
草木染は植物由来の天然染料であるため、綿や麻などの天然素材にのみ色が定着します。いすといすとの服は、季節や素材に合わせて約8種類の植物染料によって彩られています。
インド茜染め Indian Madder Dye

茜(あかね)は、その名の通り赤い根を持つ植物。根を煮出して染めることで、柔らかな赤や深みのある紅色が生まれます。
古くから衣を彩る染料であると同時に、優れた生薬としても知られ、特に女性の身体を整える薬草として親しまれてきました。
私たちの工房では、インド産の茜を用いてゆっくりと煮出し、時間をかけて布に色を移します。ややオレンジを含んだ明るい赤から、深みのある赤褐色まで、媒染や繰り返しの染め重ねによって多彩な表情が生まれます。
使用部位:根(乾燥後に細かく刻んだもの)
染料産地:インド
インド藍染め Indigo Dye

世界中で親しまれてきた「藍染」。インド藍(木藍)はマメ科の植物で、葉に含まれる色素成分を抽出して染色に用います。
ソーダ灰とハイドロサルファイトを使用する化学建てで、透明感のある青から深い群青まで、何度も染め重ねて奥行きある色を育てます。
方式:化学建て(ソーダ灰+ハイドロサルファイト)
主な色味:勿忘草色(わすれなぐさいろ)・群青色(ぐんじょういろ)
楊梅染め Myrica Rubra Dye

“ヤマモモ”の名で知られる楊梅は、染め方や媒染によって大きく色を変える染料。
温かみのある黄系から、鉄媒染による深いカーキまで、自然の力で豊かな色幅を生み出します。
主な色味:柑子色(こうじいろ)・海松色(みるいろ)
使用部位:樹皮
石榴染め Pomegranate Dye

石榴(ざくろ)の実の皮を煮出して染めています。
石榴というと実の赤を思い浮かべがちですが、皮の部分を使用することで、温かみのあるくすんだ色に染まります。
柔らかな黄や渋みのある緑がかった色など、幅広い表情を見せる染料です。
使用部位:果皮(乾燥させた実の皮を煮出し)
染料産地:主にインド・中国など
※天然染料のため、染め重ねや素材によって色の出方が異なります。自然が生み出すゆらぎをお愉しみください。
檳榔子染め Areca Catechu Dye

檳榔子(びんろうじ)は、檳榔樹というヤシ科の植物の種を乾燥させたもの。
歴史は古く、南北朝時代にはすでに染料として使用されていたと伝わります。
やわらかで落ち着きのあるベージュ系やくすみ系の色を生み、やさしい雰囲気に染め上がります。
使用部位:種子(乾燥させ粉砕したものを煮出し)
染料産地:主に東南アジア
※天然染料のため、染め重ねや素材によって色の出方が異なります。
自然が生み出す柔らかな色のゆらぎをお愉しみください。
丁子染め Clove Dye

丁子(ちょうじ)は、香り高い花の蕾を乾燥させたもの。
別名クローブとして知られ、スパイスや薬用として古くから親しまれてきました。
染色中には甘くスパイシーな香りが工房いっぱいに広がり、五感で楽しむ染めのひとときとなります。
使用部位:花蕾(乾燥したつぼみ)
別名:クローブ(Clove)

香色(こういろ)
優しいクリーミーなサンドカラー。やや黄色味を含んだ可愛い色合いで、
その名の通り染める時にはふんわりと甘い香りが漂います。
レディースのスカートなどで人気の色でしたが、最近はメンズパンツでもご注文が増え、
いすといすとの中でも“主役色”になりつつあります。
※天然染料のため、染め重ねや素材によって色の出方が異なります。
香りも色も、ひとつとして同じではない自然の表情をお楽しみください。
ログウッド染め Logwood Dye

ログウッドは、中南米原産の木の芯材から採れる染料です。
日本では明治時代に輸入が始まった、植物染料の中では比較的新しい存在(といっても100年以上の歴史があります)。
「ヘマトキシリン」という色素を含み、科学分野では「ヘマチン」としても知られています。
植物染料ならではの奥行きのあるグレーや紫がかった黒など、静けさを感じる色合いを生み出します。
使用部位:芯材(ログウッドの心材を乾燥させ煮出し)
染料産地:中南米

消炭色(けしずみいろ)
深いグレー。煙がかかったような独特の靄をまとった色合いで、
真っ黒ではない植物染料ならではの奥行きと柔らかさがあります。
光の加減で灰み・紫み・青みが現れ、落ち着きの中に静かな存在感を放ちます。
※天然染料のため、媒染や素材によって色の出方が異なります。
植物から生まれる静かなグレーの奥深さをお楽しみください。
五倍子染め Gobaishi Dye

五倍子(ごばいし)は、ヌルデの木にできる虫こぶを乾燥させたもの。
古くはお歯黒の材料としても使われていました。
鉄で媒染することで、赤みを帯びた独特の灰紫や淡いグレーが生まれます。
染め上がりは繊細で、太陽光の下では淡く優しく、室内では少し落ち着いた表情を見せる、上品で奥行きのある色です。
使用部位:ヌルデの木にできる虫こぶ(五倍子)
媒染:鉄媒染
※天然染料のため、季節やロットにより発色に差が出ます。
淡い光を映すような色の揺らぎをお愉しみください。
矢車染め Yashabushi Dye

矢車染めに使われるヤシャブシは、古くから薬効を持つ植物として知られています。
その球果には殺菌作用があり、火傷や凍傷の治療に用いられたほか、
五倍子に代わるお歯黒の染料としても使われてきました。
鉄媒染によって、深みのある灰褐色やくすんだグレーを生み出します。
使用部位:ヤシャブシの球果(乾燥・煎出)
媒染:鉄媒染

橡鼠色(つるばみねず)
やや黄味がかったグレー。暗すぎず、明るすぎず、静かな存在感のある渋い色。
他の色を引き立てる“名脇役”のような立ち位置で、どんな装いにも自然に馴染みます。
トップスもパンツも、この色で統一しても素敵です。
※天然染料のため、染め上がりには個体差があります。
光や素材によって微妙に変化する渋みの色合いをお愉しみください。
染め重ねの色 Layered Colors
草木染ならではの「染め重ね」は、ひとつの植物では出せない深みを表現する手法。
黄系の上に藍を重ねたり、異なる媒染で変化をつけたりと、自然の力と偶然の重なりで生まれる色たちです。
いすといすとでは、季節の移ろいや自然の緑を映すような、奥行きのある染め重ね色を展開しています。
木賊色(とくさいろ)


楊梅のくすんだ黄をベースに、インド藍を重ねて生む深い緑。所々にムラを出して自然な風合いに仕上げています。生地ごとに微妙な濃淡差が出る、緑好きのためのおすすめ色です。草木染では一度で出しにくい鮮やかな緑を、重ね染めで表現しています。
千歳緑(ちとせみどり)


楊梅とインド藍を重ねた、渋みのある深緑。艶を秘めた落ち着きがあり、衣類にも小物にも凛と馴染む色です。

若草色(わかくさいろ)


石榴の明るい黄色にインド藍を重ねた、若葉を思わせるやわらかな黄緑。いすといすと立ち上げ当初からの代表的な重ね染めで、見ているだけでほっとする色です。

※重ね染めはロット差・素材差が出やすい表現技法です。自然のゆらぎとしてお楽しみください。
紅藤色(べにふじいろ)


明るくも上品な紫系統の色。五倍子の灰紫に茜を重ね、妖艶なピンクパープルへ。
いすといすと立ち上げ当初、アパレルショップの店長が「この色、女の人みんな好きよ!」と断言してくれた自信作。
当時、男一人で染めていた頃の思い出深い一色です。

曙色(あけぼのいろ)


曙の空のように明るく、夕焼けの赤を含むオレンジ。
草木染に惹かれるきっかけとなった、いすといすとの原点の色。
石榴の黄が内側からふわりと見え、ベタつかない深みを生む“染め重ねならでは”の一色です。
「この服、曙色はないの?」と尋ねられるほど、今や人気色に。

※重ね染めは、素材や季節によって発色が微妙に変化します。
自然が描く色のゆらぎを、そのままお愉しみください。
煤竹色(すすたけいろ)


5日ほどかけてじっくり染め上げた、内側から赤みやカーキが覗く深い茶色。
お客様の「茶色が見たい」という声から生まれた、いすといすと初の茶系統の色です。
赤とカーキの絶妙なバランスで生まれる“煤竹色”は、時間をかけてしか出せない深み。
ムラ感を含んだ表情豊かな一色です。

憲法黒色(けんぽうくろいろ)


楊梅で海松色に染めたあと、インド藍を何度も重ねてほぼ黒に近づけた深みのある色。
光の加減で緑がかって見えることもあり、一見黒でも奥に味わいを秘めています。
草木染で“黒”を表現する――その挑戦から生まれた、いすといすとの黒第一弾。
やや緑を含む黒の陰影をお愉しみください。
※濃色の重ね染めは、染料の層が深く複雑に重なります。
光の角度や素材により、異なる表情をお愉しみいただけます。
梅重色(うめがさね)

インド茜を幾度も重ね、深く染め上げた濃赤。
茜は染め重ねの加減が難しく、やりすぎるとくすんでしまう――。
試行錯誤を重ね、ちょうどよい“濃さと透明感”のバランスを見つけました。
柔らかくも芯のある、いすといすとの深紅です。

留紺色(とめこんいろ)


藍染のあとにログウッドを重ね、暗さの中にも青みを残した深紺色。
黒に限りなく近い青は、時間とともに青とも黒ともつかぬ色へと変化します。
光の角度で表情を変え、経年の味わいを最も楽しめる“静かな青”です。

※重ね染めは季節や素材により発色が微妙に異なります。
自然の揺らぎをそのまま纏うようにお愉しみください。
草木が宿す色は、季節や水、気温によっても微かに揺らぎます。
同じ染料でも、まったく同じ色にはならない。
その一回一回の違いこそが、いすといすとのものづくりにおける“個性”です。
ゆっくりと煮出し、布が呼吸するように染料を吸い込み、
時間とともに深みを増していく。
草木染は、自然と人のあいだにある静かな対話のような仕事だと感じています。
今日染めた色が、誰かの日々をやわらかく包みますように。
山の工房から、そんな願いを込めて。
—— ISTIST工房より
浸染め(しんぜんめ)– 植物染めの基本

数日かけてじっくりと鍋の中で染色します。これにより生地はぐっと柔らかくなり、着心地のよい服になります。
ISTISTでは主に8種類の植物を使用し、繰り返し染め重ねる「染め重ね」の技法で多くの色をつくっています。
藍染め – 水の中で育てる青

同じ植物染めでも、藍染めは熱湯ではなく水の中で染めます。
藍の色素は布に“付着”するように移るため、着ていくうちに現れる「ヒゲ」や「アタリ」と呼ばれる独特な色落ちが魅力です。
回数を重ねれば重ねるほど、青は深く濃くなり、唯一無二の表情を見せてくれます。
柿渋染め – 光で育つ色

古くから防虫や防水の効果で知られる柿渋は、太陽光のもとでゆっくりと発色します。
長いときは二か月ほどかけて染色を行い、時間の経過とともに深みを増す独特の風合いが生まれます。
これらの植物染料から、いすといすとでは約30種類近くの色を染めてきました。
草木染の「媒染」という化学反応によって色を発色させる工程を工夫し、さらに別の植物で染め重ねることで、二つの色素が絡み合い、絶妙なムラと深みが生まれます。
色は日々変化します。
染める時期や気温、水の硬度でもわずかに異なり、その揺らぎが“生きている色”の証です。
私たちはその変化を受け止め、より美しい色を求めて日々研究を続けています。
―― “生きている色”を纏う。
自然とともにある服づくりを、これからも。
© ISTIST atelier / Nagasaki – plant dyed clothing